若き二人の女優が手にした次の一手 映画『累』感想

「アイドル戦国時代」とよく聞くけど、役者の世界の方がよっぽど戦国時代だと思う。ついこの間画面の片隅で「おっ、この子見たことないけど存在感あるな」と思ってあたかも自分が発見したような気分になっていると、大体次々クールの作品で主要キャストの一人になっていたりする。全く終わる気配がしない役者戦国時代の中で、最も競争率が激しいのが「清楚系女優」枠だと思う。

その一因はなんといっても、NHKの朝ドラにある。女優ならば一度は目指すであろう朝ドラヒロイン。私も次生まれ変わるならば、seventeenモデルを経た後に朝ドラに抜擢される永野芽郁ちゃんコースを歩みたいと常々思っていた。しかし、ふと思った。「朝ドラヒロインってむちゃくちゃ大変なのでは…?」

 

民放ドラマより回数が多いとかNHKの看板を背負うのが大変だとか、そんなこたぁ目指した時点で私も覚悟はしている(なった気でいる)朝ドラヒロインに選ばれると同時に脚光を浴び、何ならキャスティングが発表された時点で「国民的清楚系女優」の箔を押されるのだからやむを得まい。放送中はお茶の間から愛され、朝ドラバブルで仕事も増える。「朝ドラ後、初の民放出演作!」とか何とかで民放に行っても特別扱いされることだろう。
しかしいつまでも「朝ドラ出身清楚系女優」を名乗ってもいられない。NHKが次から次へと清楚系女優を発掘していくからだ。私主演の朝ドラより次作の方が話題になることも十分にあり得るし、ヒロインだけでなく脇役にダイヤの原石がいる可能性もある。しかし私の気なんてお構いなしに、NHKは次から次へと若くてフレッシュな女を見つけてくる。半年ごとに若くて可愛い女を確実に連れてくるのだから、そこらへんのチャラ男よりもタチが悪い。自分主演の朝ドラが鳴かず飛ばずのものにでもなれば、心のキャパが1ミクロン程度しかない私は間違いなくNHKを恨む。選んでくれた恩なんて忘れて間違いなく恨む。くそNHK、くそ脚本家!(あくまでも心のキャパが狭すぎる私の場合である)。

 

朝ドラヒロインになってしまったら「朝ドラ出身清楚系女優」の肩書に甘んじることなく、早々に自身の「第二の武器」を見つけなければならない。民放ドラマや映画でブレイクした女優たちとは一味違うプレッシャー。朝ドラヒロインって大変なんだろうなぁ、と思い私は妄想をやめた。何の話がしたいかって、映画を見た話がしたかったんだ。

 

 

kasane-movie.jp

 

原作を数巻読んだ事がある俄かな私でさえも、キャスティング発表時には愕然とした。「NHK朝ドラ主演を務めた二人が」という煽り文句も一ミリも惹かれないしというか全国民が朝ドラ見てると思わないで欲しいし、漫画の実写化なら山崎賢人か土屋太鳳持って来ればいいだろという安易なキャスティングもやめて欲しい。そんじょそこらのとりあえず実写化したろか的な安っぽい漫画と「累」を一緒にしないでよ!!と、俄かは俄かなりに思っていた。

 

気が変わったのは夏ドラマ「チア☆ダン」を見ていた時だ。また土屋太鳳が主演なのかと思って見始めたが、回を重ねるごとに土屋太鳳という女優の良さが分かってきた。オーラと存在感と、何と言っても華がある。何で主役ばかり…と思っていたけれど、逆に土屋太鳳を端役にすると彼女はきっと主役を食ってしまうのだ。考えてみれば土屋太鳳の作品を真剣に見たのはチア☆ダンが初めてだったかもしれない。もしかしたら「累」の土屋太鳳キャスティング、中々いけるのでは…?そう言えば、W主演をする芳根ちゃんの闇落ち演技も良かった(高嶺の花)。「累」の累・ニナに似てるかはさておき、土屋太鳳の対になる存在が芳根京子というのにはとても合点がいく。え、「累」実写化中々いけるのでは…!!!?

 

 

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幼い頃より自分の醜い容姿に劣等感を抱いてきた女・累(芳根京子)。今は亡き伝説の女優・淵透世を母に持ち、母親譲りの天才的な演技力を持ちながらも、母とは似ても似つかない容姿に周囲からも孤立して生きてきた。そんな彼女に母が唯一遺した1本の口紅。それは、キスした相手の<顔>を奪い取ることが出来る不思議な力を秘めていたー。

(公式HPより抜粋)

 

 

結論:めちゃくちゃにいけた

中々どころかめちゃくちゃにいけた。

 

母・淵透世の昔の知り合いだと名乗る羽生田(浅野忠信)から舞台に誘われた累は、そこで女優・丹沢ニナ(土屋太鳳)に出会う。美しい顔を持つニナだが芝居はまるでダメ、というこの「顔だけは良いから良い役をもらったが演技はまるでダメな女優」の芝居をする土屋太鳳がまず上手い。きっと土屋太鳳自身も同世代のニナのような女優を沢山見てきたのではないかと思う。その後スランプのニナに代わってと累が紹介されるのだが、自分とは似ても似つかない醜い容姿の累にニナは発狂する。「こいつが私の代わり!??」と叫びだし累を激しく罵りだす土屋太鳳がこれまた最高なんだ。

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長いこと胸の内にあった「なぜ土屋太鳳はカマトトぶっている(死語)ように見えるのか問題」に漸く決着がつき、我ながら天晴れだった。もしかして、土屋太鳳の本領はココではないか。台詞も表情も声色さえも、丹沢ニナを構成する全てが「こんな土屋太鳳待っていた!」で溢れていた(ここまで開始10分くらい)

 

ニナは舞台に立てない自分の為、累は憧れていた舞台に立つ為、互いの目的の為に二人は度々キスをして顔を交換する。「醜く暗い芳根京子」「美人で強気な土屋太鳳」だったのが、度々自信家で口が悪い芳根京子や消極的な土屋太鳳になったりする。ざっくり分ければ二人の顔の系統が同じなことも、今作では大きなプラスになっていた。顔だけではなく二人の芝居も呼応しあい、良い意味でどちらがどちらか分からなくなる。二人の女優が重なり合い融合していく様が、まさに「累」という作品そのものだ。

 

その後、(気持ちは)累(だけど姿は土屋太鳳)は演技をする楽しさや舞台に立つ喜びを覚え、「期待の若手美人女優・丹沢ニナ」として世間に名を響き渡らせる。ニナが売れるきっかけとなった「かもめ」を始め、作中の演劇には実際にある作品が使われているのだが何と言ってもサロメ!!今作を見た方は必ずサロメサロメと呟いていて他人から見るとサロメって何ぞや案件だと思う。人気女優となったニナが主演する作品で、今作最大の見せ場こそ「サロメ」だ。

 

ユダヤの王エロドは、自分の兄である前王を殺し妃を奪い今の座に就いた。妃の娘である王女サロメに魅せられて、いやらしい目を彼女に向ける。その視線に堪えられなくなったサロメは、宴の席をはずれて、預言者カナーン(洗礼者ヨハネ)が閉じ込められている井戸に向かう。預言者は不吉な言葉を喚き散らして、妃から嫌がられている。預言者との接触は王により禁じられているのだが、サロメは色仕掛けで見張り番であるシリアの青年に禁を破らせて、預言者を見てしまう。そして彼に恋をするのだが、預言者のほうは彼女の忌まわしい生い立ちをなじるばかりである。愛を拒まれたサロメはヨカナーンに口づけすると誓う。(Wikipediaより引用)

 


「累 -かさね-」【土屋太鳳/劇中ダンス映像「七つのヴェールの踊り」】

(リンク貼りましたが、見に行く方は絶対見ない方がいい)

 

もう本当にこれ最高なんすよ…!

ダンスで培った身体能力と体感を主軸に、23歳とは思えない艶やかさと存在感にただただ圧倒される。天才若手女優となったニナが有名演出家・富士原(村井國夫)の指導により、自分の演技を確固たるものにしていくように、ニナ演じる土屋太鳳自身もサロメの稽古から舞台本番の内に進化していくのだから凄い。

 

 

画面越しではなく天才女優・丹沢ニナの空気を確かに感じたし、何なら私は国立劇場にいるんじゃないかとさえ思った(その10分後にはtohoシネマズ渋谷になっていた)。私は今作を見た昨日からずっと「見てほしい」と呟いているが違う。

味わってほしいんです。「累」という作品が一つの完成形を迎える瞬間を、作品が持つ魅力に応えねばと言わんばかりに切磋琢磨しあった二人が作り上げたあの世界を、是非大きなスクリーンで味わってほしい。 

 

圧巻の112分、物語はAimerが歌う「Black Bird」で幕を引く。この歌を以って、漸く映画『累』は完成する。


Aimer 『Black Bird』MUSIC VIDEO 映画『累-かさね-』(9月7日(金)公開・主演:土屋太鳳×芳根京子)ver.

 

今年の日本アカデミー主演女優賞は「万引き家族」の安藤サクラだろうが個人的には土屋太鳳にあげたい。見返すと太鳳太鳳ばかりいっているが、演技力化け物の土屋太鳳に追いつこうと作中で進化し続けた芳根ちゃんも素晴らしかった。荒削りさは感じるけれど、間違いなく芳根ちゃんの転機となる作品だと思う。

 

twitterを見ていると美人の芳根ちゃんが醜いっていう設定は云々…的な呟きを見るけど、観る前の人がしているネガティヴな呟きを見かける度に私の中の悟空も呟く。

 

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「おめぇ、ま〜だそんなこと言ってんのか」

 

 

土屋太鳳23歳、芳根京子21歳。

一つの当り役に巡り会うのも難しいと思う役者戦国時代で、二人は早々に「第二の武器」を見つけてしまった。2019年は彼女たちを「朝ドラだけ」や「恋愛漫画実写化女優」と揶揄する人も減るだろう。その2019年が来る前に、まずは二人の若手女優の才能を存分に引き出し開花させた映画『累』を一人でも多くの人に味わってほしいと、切に願う。